新型コロナ禍から雇用を守るための特例措置として国が拡充してきた「雇用調整助成金」(雇調金)の支給決定額が、1年半足らずで4兆円を突破した。失業を抑える一定の役割を果たしてきた一方、次期衆院選への思惑も絡み、今後の財源不足にどう備えるのかの見通しを示せていない。
厚生労働省が26日、昨年3月~今年7月23日の累計で、支給決定が約400万件、支給決定額が4兆125億円になったと明らかにした。月平均で2千億円を超す支給ペースで、これが続けば、今年度中の5兆円超えも視野に入る。
2008年9月のリーマン・ショック後も特例はあった。だが09年度の支給は6534億円。コロナ禍の特例が大きく上回る。
厚労省は21年度の支給を約1兆3千億円と見込んでいた。だが企業が雇調金向けに納める保険料と積立金では不足が確実で、約1・1兆円を税金から国庫負担するほか、失業者向け事業から約1・7兆円も借りてしのいでいる。それでも厚労省幹部は「財源が年度末まで持たない。補正があれば補正、なければ予備費の投入が必要」と認める。
厚労省は財源払底を危ぶんで今年3月、7月以降は特例を縮小していく方針を表明した。縮小すると失業が増える懸念がある。そこで、いまの職場に籍を置いたまま他社で働く「在籍出向」に助成金を出すなど、雇用の維持から労働力の移動へと政策の軸足を移していく考えも示していた。
だが、感染がなかなか収まらないため、5月には方針を転換。足元ではむしろ助成水準を維持する方向にかじを切り始めている。
その流れに大きく影響したのが、厚労省の審議会が7月14日、全国加重平均が現在902円の最低賃金を28円引き上げる目安を示したことだ。過去最大の引き上げ額は菅義偉首相の意向にかなう内容だったが、中小企業が加盟する日本商工会議所などが猛反発。次期衆院選に向け、与党に危機感が生まれた。
これに呼応する形で、21日の経済財政諮問会議では田村憲久厚労相らが「最低賃金を引き上げやすい環境整備」の一つとして雇調金の助成率維持を提案。政府は中小企業の助成率を年末まで9割以上に維持することや、対象企業の基準を緩めることなどを決めた。
雇調金の財源となる雇用保険財政が悪化すれば、企業が納める雇用保険料の引き上げが避けられない。だが、すでに中小企業の業界団体などが「保険料の引き上げではなく、税金を投入するべきだ」と予防線を張る。財政立て直しに向けた実効性のある議論は見通せない状況だ。(山本恭介)
<雇用調整助成金> 休業手当を払って雇用を守った企業に対し、国が休業手当の一部を助成する制度。もともと1人あたりの日額上限が8370円、休業手当の最大3分の2を助成するが、コロナ禍における特例として昨年春から助成を拡充。現在、緊急事態宣言などの対象地域は、日額上限が1万5千円、助成率が最大10割。それ以外の地域では5月から原則、日額上限が1万3500円、最大9割に引き下げられている。
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