[ワシントン 29日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ヘッジファンド業界が、米規制当局から3つ目の「ストライク」を取られた。米投資会社アーケゴス・キャピタル・マネジメントが先週、米メディア大手バイアコムなどの株式に対しレバレッジを利かせて構築していたポジションを巡って、追加証拠金支払いに応じられず、強制的な巻き戻しを発動。複数の取引銀行が関連銘柄を一斉に売却する引き金になった。こうした追加証拠金の差し入れ不履行は、従来の金融危機のようなシステム全体を揺るがすほどの問題ではないが、最近市場で起きた多くの大混乱の1つには数えられる。規制当局は「バッターアウト」を宣告し、規制強化を進める態勢が整っているかもしれない。
かつてタイガー・アジアのマネジャーだったビル・フアン氏が経営するファミリーオフィスのアーケゴスは、バイアコム株の下落で不意を突かれ、ポジションを解消せざるを得なくなった。その影響はドミノ倒しのように波及。ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなど、アーケゴスに融資していた銀行はアーケゴスが担保に差し入れていた株式の売却を開始。野村ホールディングスとクレディ・スイスは、アーケゴスがプライムブローカー業務の顧客だったがゆえに、大幅な損失を計上する可能性があると警告する事態になった。
トレーディング絡みのリスクが市場に望ましくない混乱を巻き起こしたのは、比較的短い間にこれで3回目となった。まずは昨年。新型コロナウイルスの感染防止策としてロックダウンが実施された直後、ヘッジファンドを含む投資家が一斉に資産の換金化を急いだことで、米政府は市場安定化措置に追い込まれた。次に出てきたのがゲームストップ株の乱高下。個人投資家が徒党を組み、ヘッジファンドなどから空売りされていたゲームストップ株の買いを仕掛け、株価が高騰した。このため投資アプリのロビンフッドは一時、売買停止を余儀なくされた。ヘッジファンド運営会社シタデル傘下の証券会社が代わってゲームストップ株取引の一部を執行したことから、シタデルを率いるケン・グリフィス氏が議会公聴会に呼び出される展開にもなった。
こうしたことが続くと、米国の規制当局でつくる金融安定監督評議会(FSOC)が乗り出し、リスクをもたらしかねないヘッジファンドの活動を見定め、新たな規制が必要かどうか判断するかもしれない。FSOCメンバーの米証券取引委員会(SEC)は、アーケゴスを取り巻く状況を注視している。何しろアーケゴスの問題が発生したのは、規制体系に抜け落ちた部分があったことが一因と言える。SECへの届出書類で、アーケゴスについての情報はほとんど示されていない。これは恐らく、ファミリーオフィスが投資アドバイザー登録の必要がないからだろう。アーケゴスが相対取引方式で、外部から分かりにくい店頭株式スワップ市場を通じて活動していたことも関係している。
しかし世界中の規制当局は、こうした市場の不透明な領域に目を向けつつある。20カ国・地域で構成する金融安定理事会(FSB)によると、金融危機後に影の銀行(シャドーバンキング)は拡大を続け、2019年の規模は200兆ドルを超えた。これが国際金融システム全体に占める割合は08年の42%から、今や50%前後まで増加した。こうしたことは当局が監視しようとする十分な根拠になる。
先に挙げた3つの混乱はどれも特異なので、統一した規制を当てはめるのは難しい。それでもFSOCは数年前、資産運用業界の調査を実施した。規模と影響力が大きかったからだ。何か結論や決定事項が生まれたわけではないものの、調査過程で当局は業界に不快な印象を持つことになった。そして立て続けに3回の騒ぎを起こしたとなれば、市場の審判役を務める当局はもう容赦しないのではないだろうか。
●背景となるニュース
*米証券取引委員会(SEC)は29日、アーケゴス・キャピタルの追加証拠金支払い不履行問題を注視していると表明した。これに先立ち、野村ホールディングスとクレディ・スイスは、アーケゴスが投げ売りした銘柄の価格が急落したことに関連し、多額の損失を計上する恐れがあると警告した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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